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カエルとイーグル』 ばったり屋通信

    DSCN0873.jpg


   世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない

   自我の意識は個人から集団社会宇宙へと次第に進化する

   この方向は古い聖者の踏みまた教えた道ではないか

   新たな時代は世界が一つの意識になり生物となる方向にある

   正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識して

   これに応じて行くことである

   われらは世界のまことの幸福を索ねよう

   求道すでに道である



      宮沢賢治    『農民芸術概論綱要』 序論 より
 
   


 『虔十公園林』  ・・・・のつづき。



   そしてかたっぱしから、ぱちぱち杉の下枝をはらいはじめました。

  ところがただ九尺の杉ですから、虔十は少しからだをまげて、杉の

  木の下にくぐらなければなりませんでした。

   夕方になったときは、どの木も上の枝をただ三、四本ぐらいずつ

  残して、あとはすっかりはらいおとされていました。

   こい緑いろの枝はいちめんに下草をうずめ、その小さな林はあか

  るくがらんとなってしまいました。

   虔十はいっぺんにあんまりがらんとなったので、なんだか気もちが

  悪くて胸が痛いように思いました。

   そこへちょうど虔十のにいさんが畑から帰ってやってきましたが、

  林を見て思わずわらいました。そしてぼんやり立っている虔十にき

  げんよくいいました。

   「おう。枝集めべ、いいたぎものうんと出来だ。林もりっぱになった

  な。」

   そこで虔十もやっと安心して、にいさんといっしょに杉の木の下に

  くぐって落とした枝をすっかり集めました。

   下草はみじかくてきれいで、まるで仙人たちが碁でもうつところの

  ように見えました。

   ところがつぎの日、虔十は納屋で虫くい大豆をひろっていましたら

  、林のほうでそれはそれは大さわぎがきこえてきました。

   あっちでもこっちでも、号令をかける声、ラッパのまね、足ぶみの

  音、それからまるでそこらじゅうの鳥も飛びあがるような、どっと起

  こるわらい声、虔十はびっくりしてそっちへ行ってみました。

   するとおどろいたことは、学校がえりの子どもらが五十人も集まっ

  て、一列になって歩調をそろえて、その杉の木のあいだを行進して

  いるのでした。

   まったく杉の列はどこを通っても並木道のようでした。それに青い

  服をきたような杉の木のほうも、列をくんであるいているように見え

  るのですから、子どもらのよろこびかげんといったらとてもありませ

  ん。みんな顔をまっかにして、もずのようにさけんで杉の列のあいだ

  をあるいているのでした。

   その杉の列には、東京街道、ロシヤ街道、それから西洋街道とい

  うようにずんずん名まえがついていきました。

   虔十もよろこんで、杉のこっちにかくれながら、口を大きくあいて、

  はあはあわらいました。

   それからはもう毎日毎日子どもらが集まりました。

   ただ子どもらのこないのは雨の日でした。

   その日はまっ白なやわらかな空から、あめのさらさらとふる中で、

  虔十がただひとりからだじゅうずぶぬれになって林の外に立ってい

  ました。

   「虔十さん。きょうも林の立ち番だなす。」

   みのを着て通りかかる人がわらっていいました。その杉にはとび

  色の実がなり、りっぱな緑の枝さきからは、すきとおったつめたい雨

  のしずくがポタリポタリとたれました。虔十は口を大きくあけて、はあ

  はあ息をつき、からだからは雨の中にゆげをたてながら、いつまでも

  いつまでもそこに立っているのでした。

   ところがある霧のふかい朝でした。

   虔十は萱場で平二といきなり行きあいました。平二はまわりをよく見

  まわしてから、まるでおおかみのようないやな顔をしてどなりました。

   「虔十、きさんどごの杉きれ。」

   「何してな。」

   「おらの畑ぁ、日かげにならな。」

   虔十はだまって下をむきました。平二の畑が日かげになるといっ

  たって、杉の影がたかで五寸もはいってはいなかったのです。おま

  けに杉はとにかく南からくる強い風をふせいでいるのでした。

   「きれ、きれ。きらなぃが。」

   「きらない。」虔十が顔をあげて少しこわそうにいいました。そのくち

  びるはいまにも泣き出しそうにひきつっていました。じつにこれが虔

  十の一生のあいだのたった一つの人に対するさからいのことばだっ

  たのです。

   ところが平二は、人のいい虔十などにばかにされたと思ったので、

  きゅうにおこりだして肩をはったと思うと、いきなり虔十のほおをなぐ

  りつけました。どしりどしりとなぐりつけました。

   虔十は手をほおにあてながらだまってなぐられていましたが、とう

  とうまわりがみんなまっさおに見えて、よろよろしてしまいました。す

  ると平二も少しきみが悪くなったとみえて、いそいで腕をくんでのしり

  のしりと霧の中へ歩いて行ってしまいました。

   さて虔十はその秋チブスにかかって死にました。平二もちょうどその

  十日ばかり前に、やっぱりその病気で死んでいました。

   ところがそんなことはいっこうかまわず、林には毎日毎日子どもらが

  集まりました。


    

          きょうはここまで。さてさてつづきは・・・・。
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